社会に出てから学校で教えるということ

高校生の頃からでしょうか、学校の先生になりたいと思っていました。しかし、20代前半の自分はその道を進まず、しばらくして民間企業(語学事業)に就職。大学院や転職などを経験した後、30代最後の年に「人生でやりたいことはやっておこう」と、ようやく非常勤ながら、学校で英語講師の仕事を始めました。もともと興味があった仕事だっただけに、教える仕事がどんどん楽しくなって、自分で英語塾を始めることにもなりました。

学校で働くことに興味はあるけれど、そのまま時間が過ぎていった私のような人、実は少なくないんじゃないかなと思っています(学校の仕事を始めてから「学校ってどう?」と数人から連絡をもらったこともあり…) 。このことについて、少し書いてみたいと思います。

教員免許状を取得する人はどれくらい?

2019年3月の卒業者データを見ると、教員免許状取得者は約100,000人、大学等の卒業者数の17.4%(約6人に1人)が取得するのですから、かなり多くの人が教員免許状を取得することが分かります。 

教員採用試験の合格者数は?

次に、2019年3月卒業者(新卒者)の教員採用試験データを見てみると、教員免許状を取得しても、中学校・高等学校の教員採用試験を受ける人は50%に至りません。合格に至るまでの比率をみると、ぐっと下がります。

もっとも、これは公立の教員採用試験のデータなので、非常勤講師や私立教員の数が含まれていません。ただ、いずれにせよ、教員免許状だけ持っていて、免許状を行使していない人(ペーパーディーチャーと呼ぶそうです)は相当数いると思われます。文部科学省の資料を見ると、平成16年とかなり前のデータですが、ペーパーティーチャー数は約415万人とあります。

民間企業経験者の比率

こちらは、公立教員採用者(既卒含む)における民間企業等経験者の割合です。近年は比率が5%を下回っているので、民間企業等の勤務経験がある教員は、20人に1人も満たないことを示しています。子供を育てて社会に送り出す学校の一面を考えると、社会人経験のある人が学校現場で貢献できることはたくさんあると思っています。

こちらは2018年度のPISA(国際的な学習到達度調査)の上位20カ国のうち、データが取れた国とアメリカ(PISA 25位)を加えたグラフで、教職以外の職歴年数を示したものです。韓国と日本は、教職以外の職歴年数が短いのが顕著ですね。

社会人としての経験を活かす

もし学校で教えることにまだ興味があり、今は別の仕事をしている方であれば、おそらく専門教科が実社会とどうつながっているかを実感しているのではないかと思います。例えば、英語だったら、学校で習わないけれど現実に登場する表現は山ほどありますし、一方で、学校で学んだことが役立つことも山のようにあります。実際に英語が使えないと仕事に支障をきたす場面も明確にイメージできます。社会人経験を学校で活かせる場面は多々あります。

働き方という観点でも気づくことがたくさんあるはずです。私は自分で塾を作ることを選んだので、学校では非常勤講師で授業のみを行い、学校運営に関わることはできておりませんが、フルタイムを選ぶのであれば、学級運営・学校運営の場面でも、社会人経験を発揮できることは多いと思います。教員の長時間労働の問題解決などは、日々生産性を上げることを求められるビジネス経験者の得意ジャンルではないでしょうか。

子供との接し方という観点でも、余裕が持てるような気もします。私は英会話スクールの事業企画・運営の仕事が長かったので、国籍も含めてたくさんの人と仕事をしてきました。世の中に出ると実にいろいろな人がいるものです(笑)…。人に対する許容範囲が広がったのか、ゆったりした気持ちを持って子供と接することができているように感じます。

教員としての経験不足を埋める

社会人経験がある反面、私の教員としての経験値はゼロでしたので、これは努力する他ありません。同僚の先生の授業を見せてもらったり、外部の研修に参加したり、本を読んだりと、常に修行中の身でいます。何年も、何十年も学校で教えてきた先生方の授業は、ハッと気づくことの連続です。教える仕事のよいところは、良いと思ったことをすぐ自分の授業で試せることです。学べることがたくさんあり、学びを自分で実践しやすいので、授業を改善するサイクルが回しやすく、仕事がますます楽しくなります。

学校のイメージというのは、自分が学校に通っていた昔の記憶を頼りにイメージしてしまいがちですが、学校の授業は、かなり進化していると実感しています。英語の授業でいえば、今どき4技能(読む・書く・聞く・話す)の授業をしていない学校など、ほぼ無いのではないでしょうか。学校という環境は、教える技術を伸ばすことに寄与するはずです。

子供との接し方についても(社会人ならではの長所もありつつ)、懐が深く、愛情にあふれている先生がたくさんいます。職業人としてどうあるかもそうですが、人としてどうあるかを、多くの先生方に教わっているように感じています。元気な子供たちや、優しい先生と共に働くことができる幸せを、ここ数年味わっています。

多彩な人がいる組織

人・物・金・情報が高速で移動し競争が激化する経済、経済成長の弊害でもある環境破壊やそれに伴う自然災害の増加、格差の拡大や不安定な世界から台頭してきたポピュリズムなど、世界は複雑さを増し、VUCA(※)の時代と呼ばれるようになりました。
※Volatility(変動性) ・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとってVUCA

資金等の新規参入障壁の高さゆえか、学校という組織は競争から守られてきた側面があり、そのぶん大きな変化を遂げずとも生き残れた一面があると思います。しかし先行き不透明な時代です。2016年に開校し、2020年春時点で生徒数が約15,000人にまで伸びたN高の出現や、世界の動きを止めた新型コロナウイルスの対応では、柔軟にオンライン対応できた学校とそうでない学校の違いが顕著に表れるなど、大きな変化が起きています。

これからの学校というのは、この不確実な時代を生きる人材育成をする必要が出てくるはずです。また、地域のつながりが失われつつある今、子供を守る優しさやあたたかさも求められるでしょう。様々なバックグラウンドの人が集まり、各自のできることや経験・発想を持ち寄ることが、よい学校作りにつながるように思います。

さて、私は学校で教える仕事を始めてから、働くことの幸せを日々感じています。一方で、長年学校で働くことをためらう葛藤も経験してきています。「教えることに興味はあるけれど、でも…」と思っている方ともつながりを持ちたいなと思い始めています。

また、当塾Eduhouseも、少しずつ、松戸市にお住いの方を中心に選んでいただけるようになってきました。近いうちに、先生を探していければとも考え始めています。

出典・参考

舞田敏彦「教員免許状取得者数」
舞田敏彦「世間知らず」の日本の教師に進路指導ができるのか
2020年6月教育委員会月報
OECD 2013 TALIS Results
FactsMaps PISA 2018 Worldwide Ranking
文部科学省「令和元年度公立学校教員採用選考試験の実施状況」
朝日新聞「N高の生徒数、1万5千人に急増」